現在の場所
ホーム > レビュー > 音楽ソフト > 【インタビュー】井筒香奈江 その表現と音楽、音へのこだわり
音楽ソフト

【インタビュー】井筒香奈江 その表現と音楽、音へのこだわり page 4/5

心の傷みから生まれた『時のまにまにII 春夏秋冬』

炭山 ハイレゾで4作が出てきて、あらためて聴き直してみると、ファーストの『時のまにまに』と『時のまにまにII 春夏秋冬』との作り方の違いにも驚かされました。ファーストをつくられたとき、おそらくリスナーにとってプライベートなものにしたいという思い、聴き手と歌い手の1対1の関係が伝わってくるのですが、「まにまにII」では、そのこだわりが究極まで達したんじゃないかと思ってしまいます。

井筒 内面的なことなのですが、そう感じられるのは、当時、私の心が傷んでいたからなのだと思います。「まにまに」の第1作のとき、リーマンショック後に歌う場を作ろうと始めたわけですが、きっと私と同じようにつらいことを持っている人たちがいると思っていました。さらに、あのような東北大震災が起こって、テレビからは、頑張れ、負けるな、ということばがたくさん流れてきました。頑張ってくださいと言われるのはすごくうれしいのですが、あのときは、それがちょっとつらくなってしまって、頑張れというのではなくて、そっと聴き手のそばに寄り添うような作品をつくろうと考えたのです。

炭山 そうした思いが、多くの人たちに伝わったのでしょうね。

井筒 ファーストアルバムは、幸いにもオーディオファンやメーカーの方たちにも受け入れていただくことができました。ただ、記事を読んでも「音が良い」いうことで、耳に入ってくるのも「すごく良い音ですね」というものばかりだったのです。やはりオーディオ雑誌なので、機材などに重点を置いて書くということが大きな比重を占めて、どうしても内容のほうに触れてもらえる機会は多くありませんでした。だんだんと音作りだけはなくて、内容にももっと触れて欲しいなと、ちょっとひねくれてしまって。少し心が傷んでいたわけです。

炭山 我々オーディオのファンが原因だったのですね。

井筒 いえ、そのことは重々わかっていたので、それはそれで良かったのです。なので、それならばと音質だけでなく、もっと歌詞、歌として聞いてもらうためには、どうしたらいいんだろうということを突き詰めていった結果が、『時のまにまにII 春夏秋冬』という作品になったのです。

炭山 「まにまにII」は、喧々諤々だったとか。

井筒 暗い曲ばかりで選んでいましたし、しかもリバーブもつけないというほど、先鋭化していったのです。

炭山 聴いたときは、私も驚きました。

井筒 生声ですしね。実は、最初はリバーブを付けていたのですが、結局、付けないことにしました。

炭山 私がマスタリングの音を聴かせていただいたときは、確か残響は入っていたように記憶しているのですが。

井筒 実は一回、マスタリングをやり直しをしています。マスタリングをやり直そうということから、結局、ミックスまでやり直すことになってしまいました。もっと歌詞の内容、私が伝えたいことをストレートに皆さんに伝えるにはどうしたらいいかと思っていたら、どんどんリバーブも無くなっていたのです。余計なものを削ぎ落して、生で伝えるしかないと思うようになっていました。

炭山 聴いていると、やはりぎりぎりまで作り込んだ音だということが、はっきりと伝わってきます。私にとって、歌がダイレクトに耳に入ってくる、歌詞が奔流となって頭の中で渦巻いているというということにかけては、「まにまにII」がいちばんですね。

井筒 今では怖くて、あのようなことはできないでしょうね。今でも、あの作品を聴くと、よくやったなと思います。

炭山 録音されるときに、心掛けていることはありますか。

井筒 やはり、自然体で素直に唄うということがいちばんだと思います。録音スタジオに入るとき、ここはああしようとか、こういうようにフェイクしようということは、一切、考えません。マイクの前に立ったときは、歌詞の世界に集中するようにします。歌っているときに、ああここで語尾をちょっと上げてみようなどと考えると、歌詞の流れが自分の中で途切れてしまう。心が途切れてしまうのです。とは言っても、なかなか実践するのはむずかしくて、マイクの前にたったときは緊張もしますし、うまく歌いたいとか、うまく聴かせたいという邪念が入ってきてしまいます。そうしたものが、私の中でふっと無くなったときに、やっとOKテイクが出るのかなという気がしています。

炭山 まるで禅の世界に近い。

井筒 そこまでは、偉くないです(笑)。でも、そうできるようにいつも心掛けています。

炭山 ファースト、セカンドは、ずっとギターの伴奏で歌われていて、『時のまにまにIII ~ひこうき雲~』からは、レイドバックのメンバーが参加して、いろいろな楽器が入ってきました。また、やはりレイドバックだなと思うようなトラックもあります。「III」では、こうやってみようかという意識的なものはありましたか。

井筒 「まにまにII」で、やり切った感がありました。また「II」を評価してくださる方がとても多かったのです。それは素直にうれしかったですね。音が良い、と言われていたとしても、ここまでやり切った感のある作品で、良いと言ってくださるということは、内容も伴っていないと、こうはならないだろうなと思えるようになったのです。

炭山 やはり音楽が気に入らなければ、いくら優秀録音だからといってそうは何枚も聴きませんから、それほど広く支持は得られないですよ。

井筒 それで気持ちがひじょうに楽になったんですよ。ちょっと聴いてくださる方の立場に立つということができてきたのかなと。そうなるとギターだけでなくほかの楽器も聴いていただきたいと思うようになりました。また、レイドバックのメンバーの演奏も、皆さんに聴いて欲しいという願いもありました。そして、たとえば「まにまに」のピアノの音を気に入った方が、そのピアノを聴きたいと思ってライブにも来てもらえるようになったらいいなということもあって、二人を誘って『時のまにまにIII ~ひこうき雲~』の制作を始めたんです。


■ハイレゾで聴ける井筒香奈江 作品③
『時のまにまにⅢ ~ひこうき雲~』
Vocal 井筒香奈江
Guitar 江森孝之
Piano, Melodica 藤澤由二
Eectric bass 小川浩史
Recorded Engineer 川瀬真司(Gumbo Studio)

<収録曲>01. おやすみ/02. ひこうき雲/03. 時間よ止まれ/04. しあわせ芝居/05. 雨の街を/06. 少年時代/07. 夢一夜

WAV・FLAC 96kHz/24bit

(次ページへ続く)

-

 

 

この記事をシェアする!

AD 1st

刊行物publish

Gaudio No.3 2013.SUMMER【5月30日発売】

2013年5月31日発売

定価:1,500円

・私の小型スピーカー論

・デスクトップシステム

Gaudio No.3 2013.SUMMER【5月30日発売】

詳細を見る

PCオーディオの世界へようこそ

Welcome to the PC AUDIO World! まずはPCオーディオをはじめてみよう WHY PC AUDIO

PCオーディオ基礎知識knowledge

ベーシックマニュアル オーディオ用語辞典

プレゼントpresent

iPhoneなどにもピタリのハイセンスなヘッドフォン「harman/kardon CL」レビュワー募集!

プレゼント詳細

応募は締め切りました

AD 3rd
PAGE TOP

Gaudio+PCオーディオで人気のキーワード